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神代の響き 〔2〕

奏でられた、或は発せられた次の瞬間には消え去ってしまう『音』というもの。
それがどれだけ美しかろうが 所詮形を留めることは無く、それなりに苦心して創りだした者にとっては 心底残念なことでもあるんですが・・・
太古から神や祖霊との交信に 特別な音が使われてきたのには、「目に見えない存在」 同士だからという そんな理由もあったのかも知れません

原初には、人間が自分の身体だけで出すことの出来る音―――手拍子や特殊な唄、呪文などが使わていれたんでしょうね☆
仏教の声明やお経、キリスト教の聖歌などにも その片鱗は残っています。
身の周りの様々な素材を加工する技術が発達するにつれ、骨や石・木竹・土器などでも 特殊な音を出すためだけの道具が創られてゆきました。
先史時代の骨笛、縄文紀の磐笛、弥生時代の土笛、精霊の顔を刻んだ太鼓など・・・
そういった様々な素材の中でも、特に重要視されてきたものに 金属があります。
もちろん古代では貴重極まりない素材でもありましたし、作り出す技術も極端に高度なもので 所持できる人間も限られていた筈です。
しかしそのことよりも重要視された理由は、この世のものではないと思わせるような 強烈なインパクトを感じさせるその 『音』 にありました。

銅鐸

古代、金属は自然界に存在しない硬度を持つ新素材でしたので、国の命運を左右するほどの力を持った武器として 日本にも入ってきました。
敵を難なく調伏してしまうその威力は 鬼や魔を滅することも可能だと考えられ、しだいに特別神聖なものとしても扱われ始めます。
神話でも、悪しきものを退治する時に使われるのは 必ず特殊な力を持つ剣や鏡―――金属ですね
三種の神器には他に やはり魔物を駆逐するとされた勾玉が加わりますが、記紀以前にはこの 『鐸』 も同等の扱いをされていた節があります。
有名な銅鐸も 今だに考古学会では色々と議論が交わされている 謎の多い遺物ですが・・・
中に吊るされたであろう“舌”の発見や 内側の打撃痕から、音を鳴らす為のものであったことは確かなようです。
銅鐸を当時の形と合金比率で復刻して、実際の音を再現しようと試みている鋳物技術者の方もおられます。
僕も聴かせてもらったことがありますが、何とも深くて玄妙な響きがするものでしたね~

「鐸」 という字は “さなぎ” と読み、時代が下っても魔除けとして 様々な場所で使われてきました。
今でも目にするのは、お寺の屋根の四隅に下がっている飾り―――あれは「風鐸」といい、やはり神聖な場所を守る役目を果たしています。
それが一般家庭にまで広く浸透したものが あの風鈴ですね (^-^)
音で夏の暑さを和らげ、涼を感じるなんていうのも 日本ならではのステキな感性ですが・・・元々は魔除けだった訳です。
神社にお詣りする時に必ずガラガラと鳴らすデカい鈴、あれも元はサナギだったと思われます。
どんな格好をしていたかと言うと・・・

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ちょっと判り辛いかもしれませんが、これが諏訪神社に残る最古の 『さなぎ鉾』 というものです。
『さなぎ鈴』 とも呼ばれますが、銅鐸ではなく 小型の鉄鐸が先端に何故か必ず六個付けられています。

さなぎ鈴3

ご託宣(神様のご意向を伺う神事)の際には、神官がこれを高く掲げて鳴らしたんですね。
鉄がけっこう分厚くて重いので、“チリンチリン”とか“シャラシャラ” というキレイな音ではなく “ガッシャ・ガッシャ” と派手に鳴ります (^^;)
これも勿論、実用的な武器としての矛ではなく 金属の特殊な音を響かせる為だけのもの。
この音で魔を払い神霊を呼び、場合によっては神様に直接降臨して頂く依り代にもなったという神器です。
現在では完全に失われた音ですので、各地の神社には あのガラガラ鈴(正式名称は“本坪”といいます)ではなく、古来のサナギ鈴を付けて頂きたいと 個人的には思ってしまうところですが
まぁこちらは有名でもなく、殆ど誰も復刻したりしてませんので・・・(当たり前かな ^^;)
ちょっと頑張って作っちゃいました
ずっと以前にも、20cmぐらいのミニチュアを作って ブログに載せたことがありましたけど・・・(2012「読書の秋」参照)

サナギ鈴1

今回はほぼ実物大ですっ
とは言え ぶ厚い鉄板を加工するなんてのは自宅では出来ませんので、材料はミニチュア版と同じく コレを使いました☆

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お家にある方は、中身を使い切って捨てる前に 一度叩いてみて下さい。
意外なほど良質の鉄材を使っているので、メチャメチャいい音がするんですよ (^-^)b

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鉄バサミで切ったこれが

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こうなって

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酸化皮膜剤を塗ると、こうなるワケですね☆

実は昨年の暮に、フラメンコ舞踊で日本神話を表現する 『アマテラス』 という舞台がありまして・・・
その中の磐戸開きのシーンで踊る “アメノウズメ” を、我が愛する女房殿が演じさせて頂きました。
松村組の和太鼓奏者を引き連れ、僕も磐笛奏者として ちょこっとだけ参加してみたり
そこでこのサナギ鈴を使うために、実物大で作ってやろうと思い立ったのでした。

記紀の磐戸開きにサナギ鈴は登場しませんが、それ以外の色々な伝承神話の中には 磐笛や鈴が使われたという記述も見られます。
賑やかに宴を催してアマテラスを誘い出そうってのに、踊りと桶を踏み鳴らす音しか登場しないという方が不自然なようにも思えますしね~★
もしかしたら他にも、もっと沢山の 『消えてしまった音』 が 神代の空には豊かに鳴り響いていたのかも知れません。 
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文化・歴史