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☆『原色』のチカラ☆

アルゼンチンからメキシコまで、アンデス山脈地帯を中心に ひとりで南米大陸縦断の旅をしていた頃・・・
(いや、いきなりこう書くと植村直己さんばりの大冒険家みたいですけど、もちろん飛行機や長距離バスも使ってましたから ^^;)
僕の一番の関心事は 出版物や録音物になっていない、現地の 『活きた』 音楽でした。

南米にはインカ帝国以前より祭事で演奏されていた古い曲から スペイン統治時代にヨーロッパ音楽の影響を色濃く受けたもの、或は鉱山やプランテーション(大農場)開発の為に奴隷として連れてこられた アフリカ系民族のリズムを取り入れたものなど、実に幅広い音楽が存在します。
それらすべてが、広い意味ではフォルクローレと呼べるものなのですが・・・それぞれが独自のジャンルを形成するほどのポテンシャルと音楽的相違を生み出してきましたので、とても中南米音楽ナドという単純な括りでは語れなくなってきました
現在ではラテン、タンゴ、ボサノバ、サンバ、カリプソ、レゲエ、サルサなど 数え切れないほどに細分化され、「フォルクローレ」 という呼称はアンデス地帯を中心とする音楽に限定されています。
まぁ考えてみれば、全世界的に愛好されているジャズやロックはもちろん 音楽的に最も複雑で洗練されていると言われるクラシックでさえ、元を糺せば地域限定の素朴な民族音楽だったんですよね (^^;)

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでは、現地で仲良くなったチリ人の演奏家と アルゼンチン人・ペルー人で即席の混成チームを作って、毎晩ライブハウスやストリートでの演奏を続けていました。
ミュージシャン同士ですし、出身国が違っても同じスペイン語なので 出逢ってすぐに友達になれてしまいます。
尤もペルーでは人に対する最高の賛辞だった言葉が、メキシコへ行くと殴られてもしょうがないくらい悪いスラングになってたりもしますので 油断はできませんが
日本でも 「貴様」 とか 「お前」 なんて言葉を使うとケンカになっちゃいますけど、ちょっと前までは一番丁寧な二人称だったんですもんね★

音楽では勿論ケンカになったりはしませんが、それぞれの国のフォルクローレは微妙に違いますので 一緒に演奏するとなると旋律やリズムの細かい合意点が必要になってきます。
毎回数分の相談と練習だけで いきなり夜の本番に突入するので、知らない曲だらけのこっちは更にタイヘンでしたが (^^;)
最初は 「チリでは昔からこうなんだよ」 と愛国心も手伝って主張していたメンバーも、何度かやっているうちに 「ふ~ん、この曲をこういうリズムでやるのもカッコイイかもなぁ」 と言い出し、しまいには 「よし、帰ったら仲間にも絶対このアレンジでやらせよう」 なんていう風に変わってきたり。
お互いに影響されて演奏自体も毎日どんどん変化していくんですが、その時にふと思ったのが 「音楽って 世界中でこういう風に進化してきたのかもな~」 ということ。

メキシコの田舎では こんなこともありました。
街を散策していると、どこからともなく強烈なパワーを持った パーカッションの音が聞こえてくるんです。
何処かのチームが 近付いているカルナバルの練習でもしているのか・・・8分の6拍子と4分の3拍子が絶妙なリズムセッションを繰り広げ、どんどん盛り上がってゆきます。
これは並の演奏じゃない、さぞかし名のあるプロ集団か?と 音の出所を探して小さな路地を入ったとたん―――そこに居たのは、10人ほどの黒人系の子供たち☆
廃車になってボロボロに錆び付いたセダンに群がり、そのボンネットを みんなで一心不乱に叩いていたのでした。
誰かに統率されてパーカッションの練習をしていたわけでもなく、ただ無邪気に遊んでいただけ (^^;)
どれだけ時間を掛けて各国を回り 演奏スキルを積んでみたところで、彼らの血の中に最初からあるであろうこのリズム感とポテンシャルには 絶対に勝てないと実感した瞬間でした。

征服や侵略といった負の歴史の中ではありましたが、異民族が持っている 見たこともない楽器や思いつきもしなかった旋律、リズムに 南米各国の人々は絶えず触れてきた訳ですね。
ブエノスアイレスの道端ですら 日々変わって行った音楽・・・そのインパクトたるや、人間で言えば人格が変わってしまうぐらいの 想像を絶するものがあったに違いありません。
そうして様々な新しいジャンルが生まれ 混血音楽の細分化もされてきたのですが、年月が経ちグローバル化されてゆく中で 元になった音楽のアイデンティティー、つまり固有の民族色というものは どうしても薄まってゆきます。
絵画の世界で言えば、原色同士が様々な割合で混ざって 何万もの中間色が生まれてきた過程と似ているのかも知れませんが・・・
万人受けする オシャレで現代的なパステルカラーや技法を手に入れた替わりに、鮮やかな赤や緑の原色が持っている強烈な個性と力強さは どんどん失われてきてしまった訳ですね

そんな現状に 残っている原初の血は本能的な危機感を覚えるのでしょうか、近年それらの大元となった 単純でプリミティブな力強さと揺るぎない民族性も、改めて見直されてきつつあるように感じます。
古くから継承されてきた祈りの音楽や、先史時代の精神性を含めた生活文化など・・・アルタミラなどの岩絵や縄文土器がブームになったりしたのも、その一端なのかも知れません。
まるで先祖がえりをするかのように 体中にペイントを施し、数十名のコンガやジャンベ奏者が一糸乱れぬ演奏を展開する 『チンバラーダ』 というブラジルのグループも ちょっと話題になりましたよね☆
あの勇壮な演奏のインパクトと原色のイメージは、メキシコの片田舎で耳にした 鮮烈なリズムの印象と同じものでした。

僕も今まで 様々な音楽シーンを体験してきましたし、それらを糧に 新しい技法や曲を常に追い求める立場にありますが―――
作曲や演奏に 際限なく自由な選択肢が許されているからこそ、見失ってはいけない原色の輝きは 常に何処かに持ち続けたいと願っています (^-^)
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category
音楽・楽器

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